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トゥバ人は相撲が大好き ~フレッシュについて 

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トゥバで最も人気があるスポーツと言えば?とトゥバの人に尋ねれば、誰もがこう答えるでしょう。「フレッシュだ」と。(※)

フレッシュとはトゥバ相撲のことで、お祭りなどの際には必ず行われる伝統的な格闘技です。

写真を見た方は、きっと「え、これってモンゴル相撲でしょ?」と思ったでしょう。でもトゥバの人にそう言うときっと猛烈に反論されるでしょう。そういう僕も初めてフレッシュを観戦したとき、友人にモンゴルと一緒でしょ、と言ったところ「違う。モンゴルのスタイルは膝をついていいんだ。トゥバのフレッシュは膝をついたら負けだ」
と怒られました。
 (トゥバは文化的にはモンゴルに大きな影響を受けていますが、自分たちはモンゴル人ではなくトゥバ人である、と言う意識を明確に持っています。なので一緒にされるのを嫌う傾向にあります。ただ地域によって温度差はあるでしょうし、このあたりは微妙でなかなか外国人には気持ちが図りかねるところですが)

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力士はシューダク、ソダクと呼ばれるシャツとパンツを着用し、必ずブーツを履いて戦います。
戦う前には両手を大きく広げ緩やかにステップを踏み、「鷲の舞」と呼ばれる踊りを踊ります。
試合には必ず民族衣装を着た介添人(サルクチュ)が就き、力士はシャツやパンツをつかみながら様々な技を駆使して戦います。基本的には膝や手、背中などをついたほうが負けです。日本の相撲と違って土俵は無いので、場外負けはありません。同時に倒れるなど勝敗の判断は微妙な場合は試合のやり直しになります(大抵は客席からのものすごいヤジで再試合になる)

僕はまだフレッシュの技については詳しくないのですが、相撲で言うところの上手投げなどの投げ技や、柔道で言うところの大外狩りなどの足技も良く使われているように思います。相撲では禁じ手の足取りも頻繁に行われるので、結構ダイナミックです。柔道で言うところの肩車のような大技もあり、これが決まると会場はめちゃくちゃ盛り上がります。

勝敗が決まるとお互いに抱き合ったりして健闘をたたえ、敗者は勝者のわきの下をくぐります。そしてダイナミックな勝ち方をした力士には、客席から「こっち!こっち!」と歓声が上がり、力士は客席近くに盛ってあるお菓子の山を手いっぱいに掴み客席に放り投げるのです。
(もともとはブシュタクと呼ばれる乾燥したチーズを撒いていたようですが、現在は小麦粉のお菓子ボールザクや飴なんかも撒いています)

そして勝者は競技場の中心にあるポールの回りを鷲の舞を踊りながら一回りし、席に戻ります。客席はやんややんやの大盛り上がりです。

フレッシュは結婚式や親族間などのちょっとした祝い事などでもやることもありますし、地方の小規模なお祭りなんかでも行われますが、夏の牧民の祭り「ナーダム」などはもう国家的一大イベントで、優勝者には車一台など豪華な景品が贈られます(その後優勝者はその車に乗って街中をクラクションを鳴らしながら走りまくる)

僕は一度モンゴル相撲(ブフ)の研究者の先生にトゥバとモンゴルの相撲のルールの違いを質問したことがあるのですが、トゥバのスタイルはハルハ・モンゴルと同じスタイルなのだと言うことです。僕も不勉強なのですが、モンゴルでもモンゴル国と内モンゴルでは衣装や踊りなどスタイルがまったく違いますし、各地に色々なスタイルがあるようです。
2010年にトゥバの隣アルタイ共和国を訪れた際にも、フェスティバルで相撲が取られ、それは「クレッシュ」と呼ばれていました。自分が知る限り口琴が盛んなサハ共和国でもフェスティバルなどでは相撲が取られているようですし、シベリア各地での相撲のスタイル、というのも特別に研究されるべきジャンルではないかと思います(もう既にあるのでしょうが、日本人ではそんな方にお会いしたことはありません)

また日本と他の様々なシルクロード経由での文化と同様に、相撲に関しても日本の大相撲と大陸の相撲との関係性に深い興味を覚えます。日本の大相撲は古事記に既に記述が見られるようですが、大相撲が大陸を経由して日本に伝わったかどうかは、資料もなくよくわからないようです。(大陸経由だろう、という意見を聞いたこともあります)

ところで、昨年クズルで面白いイベントがありました。
街中を歩いていたらでっかいポスターに朝青龍が四股を踏んだ姿ででているではありませんか。
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昨年夏にトゥバで日本式の大相撲イベントがあったのです。どうもヨーロッパを含めたロシアでは大相撲がちょっとしたブームらしく、そこではトゥバ人以外にもグルジア人やモンゴル人などの力士たちが回しを締め、ビニールで敷かれた土俵の上で戦っていました。(行事はロシア語なまりのつたない日本語でノコッタ、ノコッタと言っていたので笑いましたが) 

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しかしフレッシュが国民的スポーツであるトゥバでは日本の大相撲にも関心が高く、多くの人が朝青龍や白鳳を知っています。そしてある人にはこう聞かれました。「リョーヘイ、何で日本の相撲には外国人の力士がたくさんいるんだ?日本人の力士がモンゴル人の力士に負けたら悔しくないのか?」思わず笑ってしまいましたが、トゥバでは好きな人はそれくらい観客が思い入れをこめて応援するのです。ナーダムなど大きな大会で決勝がトゥバの力士とモンゴル人の力士だったりすると、勝敗のいかんによっては客席でけんかが始まるほどのものすごい盛り上がりになります。


トゥバではお年寄りから幼い子供たち、そしておしゃれ好きの若い女の子たちもがフレッシュを見に行きます。
そう考えると日本の大相撲は、今や一部の年配層の人たちしか見ないものだなあ、この差はいったい何なんだろう?と考えてしまいます。

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子供たちは幼い頃から遊牧地の天幕のそばで兄弟や近所の子供たちと相撲を楽しみ、街中では若者たちがベルトを掴んで技の練習をしているのを見かけることもあります。彼らにとっては、本当に生活に身近な文化なのです。有名な力士は国民的な英雄で、多くの若者たちの憧れの対象です。

はっきり言って、単純に観客動員数で言えばホーメイよりずっと上です。例えばナーダムでトゥバの有名ホーメイジが多数参加した国立オーケストラは数百人単位のホールで演奏しますが、フレッシュは数千人規模のスタジアムで開催され、しかも超満員になり会場外のスクリーンを見に多くの人が詰め掛けるような感じです。やはり古今東西芸術文化よりスポーツのほうが、大衆的には圧倒的に人気なんだよなあ、としみじみと思ったりします。


さて、僕も昨年フレッシュを初体験してきました。
初めの頃はトゥバ自体にも慣れていませんでしたし、やらされそうになるとやんわりと逃げていたんですが、
今年有名ホーメイジたちが一堂に集まる機会があり、そのとき彼らと一緒にフレッシュをやったのです。僕は当然のようにメンバーに組み込まれたのですが、その時は結構やる気でした。だいぶトゥバにも慣れてきていましたし、何を隠そう僕も中学生の頃は柔道部に所属しており、そんなに簡単には負けないぞ、と言う気持ちもあったのです。

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試合の前に僕も鷲の舞を踊り、その後日本式に四股を踏むと、会場はバカ受け。なんとか一勝したのですが、2回戦で僕のドシュプルールと言う楽器を作ってくれたカン・フレル・サーヤに足を取られ敗れました(悔しかった!)

しかしなんだか相撲を取った後は、お互い戦った仲間だね、といった充実感があり、日本人である僕も少しだけ彼らの仲間になれたな、と感じ、今でも思い出すと少し胸が熱くなります。

おかげで最近はだいぶ相撲に興味を持つようになり、日本でも大相撲を見に行こうかなあ、とか考えている始末です。

トゥバに興味をお持ちの方には是非、トゥバの代表的な文化であるフレッシュについても知って欲しいなと思います。そしてチャンスがあったら是非観戦してみてください!


(※私もまだ不勉強なのですが、日本の大相撲と同じく歴史的には神事と関わりがあったはずで、スポーツと言い切れないのですが、やはり体感的に近年ではスポーツとして楽しまれていると感じます。フレッシュに関してはまだ知らないことも多いので、もし何か間違いなどに気付かれた方はお知らせください!)
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by teradaryohei | 2012-05-11 21:32 | トゥバの文化 | Comments(0)


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