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トゥバを知るために⑥ 直川礼緒 「口琴のひびく世界」

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「口琴(こうきん)」と言う楽器はご存知でしょうか?アイヌの「ムックリ」なんかは有名ですよね。
最近は楽器店などでも流通するようになり、その存在を知っている人も以前よりずっと増えてきました。

一見、ちょっとしたおもちゃのような印象を持っている方も多いと思うのですが、この楽器をそう甘く見ちゃいけません。
楽器としての歴史は非常に古く、確認できるだけでも2000年以上前からあるようです。
ユーラシア大陸を中心に世界中に広く分布しており、日本でも江戸時代に大流行し幕府に禁止されたという文献が残っているそうです。

口琴は世界各地に分布していても知る人ぞ知る、マイナーな存在に甘んじている場合が多いのですが、伝統的な音楽文化として根強く残っている地域も多く、トゥバもそういった地域のひとつです。鉄口琴「デミルホムス」を中心に、何種類もの口琴があり、トゥバの音楽文化の中でも非常に重要な位置を占めていると言っていいと思います。

そんな小さくて不思議な楽器、口琴の魅力をあまねく伝えてくれるのが本書、「口琴のひびく世界」です。

日本口琴協会の代表でもある著者の直川礼緒さんは、本書の中でバリ、シベリアのサハ共和国、ノルウェー、ドイツ、ロシア連邦内のバシコルトスタン共和国など様々な地域を訪れながら、口琴とそれに関わる人々、その音楽文化を紹介していきます。その中の1章分を「トゥバの口琴とブーツの関係」というタイトルで、トゥバの口琴とホーメイについて詳しく取り上げられています。

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口琴を演奏するトゥバのミュージシャンたち

詳しいことは是非本書を手に取っていただきたいと思うのですが、僕は本書を読み、世界各地に少しずつとはいえ、これ程の人たちがこの小さな楽器に心奪われ、その音楽文化を楽しみ、自らを表現できる手段を持っているということに何とも嬉しくなりました。大げさですが、この世界が本書を読んだ前よりも少し豊かに思えてくるようです。

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トゥバの鉄口琴 - デミルホムス (他にも様々な形状のものがありますが、トゥバ口琴はこの形が多いです)

口琴は構造としては非常にシンプルな楽器です。しかし出てくる音はとても豊かなもので非常に複雑な表現が可能です。世界各地で口琴を使って豊かな音楽表現をしている人たちのレポートを読みながら、私たち現代の日本人ははたして、そういった自分たちを表現する音楽文化を持っているのだろうか。僕はそんな事も考えさせられました。

本書は、口琴を通した世界各地の音楽文化を見ていくことで、文化人類学的な観点から見ても非常に価値の高い一冊なのではないかと思います。また日本人になじみの薄いシベリアや北方の少数民族、また中央アジアなどの文化を知るための一冊としてもオススメです。(しかも全ページフルカラー!)


さて、直川礼緒さんは音楽家、口琴研究家として有名ですが、トゥバのホーメイ、そしてその周辺国の喉歌の存在を日本にいち早く紹介した人でもあります。

1993年に日本口琴協会発行の「口琴ジャーナル」第7号にて、トゥバのホーメイシンポジウムの模様をレポートし、トゥバを代表する音楽学者であるゾーヤ・クルグスやバレンチナ・スズケイ氏の論文を翻訳し紹介しています。

少し突っ込んだ内容になりますが、現在、ホーメイ、喉歌ファンのあいだで語られる「アルタイ山脈周辺にトゥバのホーメイ、モンゴルのホーミー、ハカスのハイ、など、様々な種類の喉歌があるよ」といった言説は僕が知る限りここで直川さんが始めて紹介されたのではないかと思います。
実は僕も口琴ジャーナルは昨年はじめて読んだのですが、1993年の時点でこんなに質の高いレポートをしていたのかと、非常に驚きました。


 本書「口琴のひびく世界」のなかで、直川さんは「トゥバ人にとってホーメイは哲学であり、美学である」と述べられています。これは僕は非常に重要な指摘だと思っています。

 ホーメイは単なる発声のテクニックではありません。

 僕が「ホーメイをやっている」と話すと、よく返ってくる反応が「声が2つ出るやつ?」とか「うぃ~んっていうあれでしょ?」といったものです。

 確かに、トゥバのホーメイは発声が世界的にも極めて特殊なものですから、そういう反応が返ってくるのは良く分かるのですが、僕としてはなんだかトゥバの人たちがあたかもビックリ人間の様に思われているようで複雑な気持ちになります。
 トゥバのホーメイは基本的に歌詞を伴ったもので、そこにはトゥバ人の深い自然観や精神世界が反映されており、一定の様式美の中で様々な感情が表現されています。ホーメイはトゥバ人の精神世界の結晶なのです。直川さんの指摘された、「哲学であり、美学である」とは、そのことを端的に表現していると思います。


ともかく、口琴を知りたい初心者から実際に口琴・ホーメイをやっている人まで、広くおすすめしたい一冊です。CD付きなので、実際に音源を聞きながら是非読んでみてください。

日本口琴協会のサイトや、高円寺円盤などで購入できます。
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by teradaryohei | 2013-01-10 22:47 | トゥバ関連書籍 | Comments(0)


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