>

<   2012年 06月 ( 1 )   > この月の画像一覧

トゥバと「スキタイ」

a0213796_1526499.jpg


「スキタイ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?高校で世界史を選択していた方なら、もしかすると教科書に載っていたかもしれません。

スキタイとは現在もっとも古くに存在したと考えられている遊牧国家(遊牧騎馬民族集団)のことで、紀元前7~前4世紀ごろ(?)存在したと考えられています。

チンギスハーンとその息子たちが活躍したモンゴル帝国はご存知かと思います。歴史上中央ユーラシア地帯ではそれ以前にも、遊牧を主な生産手段としながら、騎乗を得意とし独自の軍事組織、社会制度を持った集団、もしくは国家が興亡を繰り返してきました。

彼らは中国やヨーロッパなど、当時の先進的な定住農耕地帯の国家と匹敵するか、あるいはそれを凌ぐ強大な軍事力を持っており、またそれらの地帯の国家とはまったく異なる社会制度をもっていたため、定住社会の住民にとっては常に脅威に思われていたようです。(同時に、そのため野蛮な存在とも考えられていた)

しかし、中央ユーラシア草原地帯の歴史の多くは、未だに多くの謎に包まれています。なぜならば彼らの多くが文字を持っていなかったからです。そのため彼ら自身が自らの手で歴史を書き残すことが少なく、その多くが中国やヨーロッパの歴史書(例えば、ギリシャのヘロドトスや中国の司馬遷など)を紐解きながら推測?されてきました。しかし近年活発な考古学発掘調査の成果により、多くのことが明らかになってきています。

スキタイはもともと、北カフカスや黒海地方を中心に存在していたと考えられてきました。しかし1970年代前半以降、スキタイは東方の内陸アジア北部の草原から移動してきたのではないかという考え方が有力になってきました。その決定打となったのが、トゥバ共和国にある「アルジャーン古墳」での発掘調査でした。

トゥバ共和国の首都クズルから北西へ100キロほど行ったところにアルジャーンという小さな村があります。
аржаан/アルジャーンとは鉱泉のことで、トゥバの人たちにとっては一種の聖水であり、薬効があると考えられています。各地でこのように泉が湧く場所は保護され、人々の療養や憩いの場所となっています。

そのアルジャーン村の古墳で、1971年に発掘調査が行われました。
中(アルジャーン1号墳)からは墓の中心人物と思われる男女の遺骸が2体発見され、その周りには全部で15体の遺骸と、馬具を装着した160頭もの馬の遺骸が発見されました。
古墳の周りのいくつかの小石堆からは、羊、ヤギ、牛の骨が若干と、数頭分の馬の骨が発見されました。石堆全体で考えると、約300頭の馬が殺され、葬儀の参列者に振舞われたと考えられ、ロシアの研究者によるとそれだけの肉を一度に消費するとすると少なくとも1万人は必要だと推測されるそうです。これは当時この地方にそれだけの権力者がいたことを示しています。
a0213796_1512419.jpg

僕も昨年の夏アルジャーン古墳に行ってきました。この場所に権力者の亡骸があったはず

 また墓室は盗掘を受けていたのですが、その中からは馬具、武器、装飾品など多数の青銅製品が発見されました。(当時墓泥棒の目当ては金銀製品だけだった)これらの発掘品や古墳内部の木材などを科学的に測定した結果、それまで草原地帯西部にスキタイが出現した年代よりも古いことがわかったのです。

a0213796_14431339.jpg

アルジャン1号墳で出土された青銅製飾り板。トゥバではお土産品やTシャツのマークなどによく使われている。これはクズルの国立美術館に所蔵されている

 さらに2001年には、エルミタージュ美術館とドイツ考古学研究所の合同調査団が別の古墳(アルジャーン2号墳)の調査を行いました。その結果墓泥棒の盗掘を免れた、金製品だけでも5700点、総重量20キロにも達する遺宝をまとめて掘り出したのです。(現在はエルミタージュ美術館のシベリア・コレクションとして特別に鑑賞することができる)
これらの金銀製品からは初期スキタイ美術に典型的なモチーフやその萌芽ともいえる模様が確認され、また鉄製品も発見されました。
これらの発見から、スキタイが東方から移動してきたのではないか、という考え方がますます有力になってきたのです。

a0213796_1594327.jpg

アルジャーン古墳の現在の全貌。周りには木のユルタがひとつあるだけで、トゥバの人たちのちょっとしたピクニックスポットになっている

アルジャ-ン遺跡でこのような歴史的発見があったことは当然トゥバの人たちにも誇りであり、出土品はさまざまな場所でデザインのモチーフとして使われています。

a0213796_15333391.jpg

クズル中心にある国立美術館では、アルジャ-ン2号墳で発掘された金製鹿型飾りがシンボルマークとして採用されている

僕はトゥバに通うようになってから、様々な遺跡や壁画のある場所に連れて行ってもらったのですが、いまいち意味が掴みかねることが多くありました。その後もともと歴史好きだったこともあり、少しずつこの地域のこれまでの道のりを調べるようになったのです。そして自分がいかに中央ユーラシアの歴史について知らなかったかを痛感し、また同時に多くの日本の人たちもヨーロッパや中国の歴史を中心に世界を捉えているのではないかと思うようになりました。

「遊牧民は7代前まで先祖を言える」と言うように、トゥバの人たちも先祖への並々ならぬ思いを感じることが良くあります。それは音楽、特に歌詞世界にもしばしば散見されることで、彼らの歌や音楽からは、大げさかもしれませんがその演者だけでなく脈々とその文化を受け継いできた祖先の思いも詰まっていると感じることがあります。

僕もトゥバの歴史に関してはまだ勉強不足で分からないことも多いのですが、歴史にそのロマンを馳せることによってさらにトゥバの音楽世界の深みを感じている今日この頃です。


●参考文献: 林俊雄/遊牧国家の誕生 (山川出版社)
        林俊雄/スキタイと匈奴 遊牧の文明 (講談社)
        岡田英弘/世界史の誕生(筑摩書房)
        Дарбаа Юрий Кок-оолвич / Тыва дыгайында 99 айтырыгга харыылар
[PR]
by teradaryohei | 2012-06-10 16:19 | トゥバの文化 | Comments(0)


トゥバ音楽演奏家の寺田亮平のブログ。ロシア連邦トゥバ共和国の現地情報、社会、文化、ミュージシャンなど紹介します     dtxmain[at]gmail.com


by teradaryohei

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
はじめに
プロフィール
トゥバ日記
ライブ情報
トゥバ共和国について
トゥバの音楽
トゥバの文化
トゥバ社会
トゥバ関連書籍
シベリア関連
トゥバの楽器が欲しい方へ
未分類

以前の記事

2017年 05月
2017年 04月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 06月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 03月
2013年 12月
2013年 10月
2013年 08月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 09月
2011年 07月
2011年 06月

フォロー中のブログ

最新のコメント

トゥバの人たちにとって、..
by 佐藤隆之 at 15:21
ホーメイを練習中でイギル..
by 信國 at 17:46
クーチークリーチャー様 ..
by teradaryohei at 20:47
お久しぶりです。昨年秋、..
by クーチークリーチャー at 17:31
キューレさんお久しぶりで..
by teradaryohei at 14:01
アチコチでご活躍のようで..
by キューレ大王 at 19:46
nakamuraさん ..
by 寺田亮平 at 14:33
kawazuさん はじめ..
by 寺田亮平 at 14:22
デルス・ウザーラを検索し..
by KawazuKiyoshi at 13:16
HHTやチルギルチンなど..
by NakamuraT at 20:58

メモ帳

最新のトラックバック

http://venus..
from http://venusgo..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venussome.co..
from venussome.com/..
http://www.v..
from http://www.val..
ミュージカルかファンタジ..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

タグ

その他のジャンル

ブログパーツ

最新の記事

トゥバの音楽とインドの笛と
at 2017-05-05 21:33
テュルクとペルシアの音楽~カ..
at 2017-04-04 21:24
北方諸民族の歌と踊り - ..
at 2017-01-29 20:31
北方諸民族の歌と踊り -① ..
at 2017-01-25 18:37
ソロライブ & トゥバ最新レ..
at 2017-01-06 22:44

外部リンク

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧